【食べチョク座談会】恐れずに扉を開いて!『硬い桃』の奥深い世界
一口かじれば“サクッ”、日を追うごとに“もちっ”と食感が変化する「サクもち桃」や、まるでリンゴのようなガリッとした歯ごたえの「シャキ桃」など、最近注目の“硬い桃”。
やわらかくてとろけるような桃が定番だった中で、今じわじわと人気を集めているのがこの“硬さ”にこだわった新感覚の桃たちです。
今回は桃の名産地の生産者さんを迎えて、「硬い桃座談会」を開催。美味しい食べ方、知っておきたい品種、発送の工夫など…硬い桃の奥深い世界をたっぷりご紹介します!
生産者さんが語る硬い桃の魅力
食べチョク座談会には、長野県・福島県・山梨県から、個性あふれる生産者さんたちにご参加いただきました。それぞれの地域で培われた知識と経験をもとに、“硬い桃”へのこだわりや魅力をたっぷり語っていただきました!

長野県:フルプロ農園 峰村さん
ーーー硬い桃の魅力について教えてください。
峰村さん:「桃は日持ちのしない果物です。特にやわらかい桃は、1日置いただけで熟してドロドロになってしまうものもあります。硬い桃は産地や産直でしか手に入らないところも魅力。硬い桃はお好みの硬さを楽しめて、熟してもやわらかくならないので長い期間楽しめるのも良さだと思います。」
◾️Profile
長野県長野市で桃とりんごを栽培しています。20代前半で実家の農園を継ぎ、地域農業の現実と向き合うなかで「地元の耕作放棄地をゼロにしたい」という夢を持つようになりました。
現在は、耕作放棄地を積極的に活用しながら、高齢者や女性、農業初心者でも取り組みやすい栽培方法を導入。地域の人たちとともに、農業を通じたまちの活性化に取り組んでいます。
福島県:まるせい果樹園 佐藤さん
ーーー硬い桃の魅力について教えてください。
佐藤さん:「硬さがあっても果汁がたっぷりなのが魅力ですね。『暁星(ぎょうせい)』や『まどか』はまさに熟してもそれをキープできる桃です。硬くても甘さがあって桃の風味も十分に感じられるのが良いところだと思います。
やわらかい桃は1日置くと熟して溶けてしまうんですが、硬い桃は時間が経ってもしっかり果肉を感じられるような柔らかさになる。そこがやわらかい桃との大きな違いだと思いますね。」
◾️Profile
福島市飯坂町で、桃・さくらんぼ・ぶどう・梨・りんご・柿など、多品種の果樹を栽培しています。
併設の観光果樹園では、旬の果物を販売する直売所と、果物を贅沢に使ったパフェが楽しめる農家カフェも運営。新鮮なおいしさを、訪れた方にその場でお届けしています。
また、食の安全や環境保全、労働安全、人権・福祉といった視点を大切にし、持続可能な農業を実践。JGAP・ASIAGAP・G.GAPの各認証を取得し、県の慣行基準より約3割農薬を減らすなど、安心して食べられる果物づくりに日々取り組んでいます。
山梨県:南アルプスこまの園 野田さん
ーーー硬い桃の魅力について教えてください。
野田さん:「硬い桃の魅力はお二方がおっしゃるとおりですね。加えて言うなら、硬い桃の中でも小玉は、いつまでも硬いんです。去年からクレープ屋とレストランとパン屋に小玉の桃を卸すようになりました。小さい桃はコンポートなどに使いやすいようで、僕がお付き合いしているお店はあえて小玉を希望します。こんなパフェやパンができましたと写真を送ってくれるんです。
生産者として生食で食べて欲しいというのはもちろんなのですが、今まで破棄していた硬い桃の小玉を喜んでくれる方々に出会い“あなたの桃を使いたい”って言ってもらえて、僕のなかで新たな喜びが生まれました。硬い桃は加工しやすいという点でも魅力的だと思います。」
◾️Profile
山梨県南アルプス市で、さくらんぼ・桃・すもも・ぶどう・干し柿を家族で栽培しています。
「食べ応えと感動を届けたい」という想いから、果実は1本の木あたりの実をあえて少なくし、大きく育てるこだわりの栽培を行っています。また、農薬は国の基準に沿い、不要な散布を避けることで減農薬にも積極的に取り組んでいます。
2020〜2023年には食べチョクアワード〈果樹部門〉を4年連続で受賞、現在はスイーツ専門店への食材提供も行っています。
サクもち桃の品種
ーーーみなさんの県にある「サクもち桃」の品種を教えてください。生産されているものや、他にもおすすめはありますか?
峰村さん:「私たちが生産している長野県の北信地域の硬い桃と言えば『ワッサー』です。須坂市で桃とネクタリンが自然交配によって生まれました。果肉が黄色くて熟すともちっとして、ネクタリンのように皮がなめらか。2つのよいところがうまく調和しています。長野県生まれの定番品種『なつっこ』もおすすめですが、私はやはりワッサーが好きです。」

佐藤さん:「福島県産で硬い桃を多く生産しているものは、『さくら白桃』という品種です。収穫したてはカリカリ、追熟をするとサクサクっていう感じの食感になります。実に弾力がついてきたら収穫します。他におすすめは『暁星(ぎょうせい)』。小粒なんですけど、甘みが強く、香りが強くて、しっかり硬いシャキ桃!『まどか』は『あかつき』よりも硬くて、大粒になりやすくて、糖度も高くて色も良い。追熟してもやわらかくならないまさにサクもちの桃ですね。福島県を代表する品種『あかつき』もおすすめですが、ワッサーに比べると固さは劣りますね。」

野田さん:「山梨県で代表的なのは『夢桃香』です。りんご並みに硬いけれど味は桃そのもの。ガシガシ食感に桃風味なので、初めて食べる人は混乱するほどです。これはシャキ桃ですね。個人的に好きなのは『夢みずき』。硬いうちからえぐみがなく、追熟することでもちっとして食べられるのでおすすめです。」
食べごろの見極め方

ーーー硬い桃を購入してから食べごろを見極めるポイントはありますか?
峰村さん:「硬い桃の食べごろの見極めって、難しいですよね。実をさわってみて、“少し柔らかくなったかも”かもという状態で、食べるのが一番いいかなと思いますね。」
佐藤さん:「僕は実に弾力が出てきたら収穫するので、弾力の具合で見極める。っていうのが一番ではあるんですけども、色で判断もできます。収穫のあとに追熟をすると、もともと青みが残ってたものが、日が経つごとに青みが消えてきます。お尻の色の芯の付け根ぐらいの緑っぽさがクリーム色っぽく変わってきたときが食べ頃です。」
野田さん:「お二人のご意見に加えて、あとは実のうぶ毛がなくなってきた頃ですかね。青みがなくなってくると、うぶ毛がやわらかくなってきます。
そして香りをかいでみる。すごく硬いうちは香りがないです。熟して実に弾力がつくにしたがって、桃の香りが少しずつ出てきます。包丁を入れてみると弾力に反してやわらかくなっていることも。香りが強いと熟し過ぎているケースが多いのでご注意ください。
僕はお客様に桃を発送するとき、熟し始めたものと硬いものを、できるだけ混在させるようにしています。全部同じ熟度だと、一度に全て食べなきゃいけないので。混在させることでちょっとずつ楽しめますし、自分好みの硬さも見つけやすいんじゃないかなと思っています」

自分好みが見つかる!野田さん流『桃の楽しみ方ガイド』
- 桃が届いたら、まずキャップ(保護材)を外します
- やさしく触れて、1つひとつの硬さをチェック
- 硬さをもとに、食べる順番を決めましょう♪
やわらかめが好きな方
やわらかい順に食べ進めると、ちょうどいい食べごろに当たる確率がアップ!
硬めが好きな方
硬い順に食べると、好みの硬さに出会える可能性が高い♪
どちらも楽しみたい方
その日の気分で順番を変えても◎たとえば、初日は一番やわらかい桃を、翌日は一番硬い桃を。日々の違いも楽しめます♪
野田さんからのアドバイス
箱に5~6個入っていたら、まず全部キャップを外して硬さを確認し、食べる順番を決めてください。まずはいろんな状態で食べてみて、自分の“好きな状態”を知ることが近道だと思います。
サクもち桃の美味しい食べ方

ーーーサクもち桃のおすすめの食べ方を教えてください!
峰村さん:「桃の旬の時期は暑いので、やっぱりキンキンに冷やしてそのまま丸ごとガブッと!が一番おすすめです。汚れをしっかり水で落として、そのまま皮ごとかぶりついてください。」
佐藤さん:「僕も皮ごと食べるのが良いと思います。皮と実の間が一番甘いので、硬い桃ほど皮ごと食べて欲しいですね。頭の部分が甘いのでお尻から食べて最後に頭を食べるのがおすすめです。最後のあと味が美味しいのが個人的に好みなので!」
野田さん:「果物を作ってるものとしては、そのまま生で食べるのが一番ですね。
桃のえぐみが好きな人なら頭から、甘いのが好きだったらお尻から食べてみてください。それぞれ食べた感覚が違うので比べてみるもの良いですよ。」
桃の産地で喜ばれるのは硬い桃

ーーー硬い桃の産地ならではのお話などがあれば教えてください!
峰村さん:「生産者をやっていると、やわらかいはねだし桃などを祖父母に持って行くのですが、『硬い桃がいい、やわらかい桃は缶詰の桃だ』と言われてしまうんです。オーバーかもしれないんですけど、長野県民は『やわらかい桃=缶詰』だと思う方が多いのかな。個人的には手をベトベトにしながら食べる、やわらかい桃も大好きなんですけどね。」
佐藤さん:「福島県も同じく、峰村さんがおっしゃった通り硬い桃が主流ですね。もう10年ほど前の話なのですが・・・
福島県は無袋栽培なので赤黒くなるまで育てます。赤黒く熟したものを西日本の大阪に送ったら、驚かれたことがあるんです!」
ーーー西日本は真っ白なものが多い岡山の桃文化圏だから最初は驚くかもしれませんね!
佐藤さん:「赤黒い桃は美味しい桃なんですよ、と説明してご納得していただきました。ここ10年でやっと定着してきましたね。ちなみに、あかつきとまどかも無袋で育てています。」
野田さん:「特に硬い桃は熟しても硬いままなので、『いつ食べられるの?』ってよく聞かれます。4~5日経って食べごろのものを送っています。
究極を言えば、お客さんが自分が好きな桃を作ってくれる生産者さんと出会えるかどうかもポイントなのではないかと思います。」
ちなみに、食べチョクのスタッフにアンケートを取ってみたところ……
なんと、「硬い桃」派が多数!さまざまな果物を日々食べ比べているスタッフたちですが、意外にも硬めのサクもち桃やシャキ桃に人気が集まりました。
果物好きのプロたちのお気に入りの硬い桃、気になりますよね。
硬い桃初心者さんへのメッセージ

ーーー硬い桃初心者さんへメッセージをお願いします。
峰村さん:「やわらかい桃ももちろん美味しいのですが、硬い桃にも美味しさがあります。経験として一度チャレンジしてみてほしいです。良い意味で新しい発見があると思います。実は僕自身も今日『暁星』という品種を初めて知りました。
硬い桃の品種は、産地や産直でしか出会えないことも多いので、ぜひ一度手に取ってみてください。」
佐藤さん:「“硬い桃=おいしくない”というイメージ、ありますよね。でも、硬さそのものが美味しさになる桃もあるんです。どんな桃も収穫直後は硬いもの。それでも“硬くて美味しい桃”を育てる生産者に出会えば、これからもっと桃の楽しみ方が広がると思います。
僕も今日みなさんとお話していて、『ワッサー』を食べたいなと思いました。これからも、硬くて美味しい桃の環境作りも含めて生産を続けていくので、皆さんもぜひチャレンジしてみてください!」
野田さん:「やわらかい桃と硬い桃は、香りこそ似ていても、味わいはまったくの別物だと考えています。やわらかい桃は風味が強い分、えぐみや苦み、酸味も含まれていますが、”硬い桃は雑味が少なく、甘さが際立ち”ます。
ただ、桃は“品種や産地、生産者”によって全く違う果実になります。『去年の桃はいまいちだった』という声も聞きますが、“何の品種だったか”まで覚えている方は少ないんです。まずはどの品種を食べたのか、どの生産者の桃だったのか、知ることから始めてほしい。そして、毎年いろいろな桃を食べ比べて、”自分の“推し桃””を見つけてみてください。」
まとめ
今回ご参加いただいた長野・福島・山梨の生産者さんたちからは、
“硬い桃”への真摯なこだわりと愛情、そしてその魅力をもっと多くの人に届けたいという強い想いが伝わってきました。
桃のプロである生産者さんならではの視点は、私たちにとって新しい味覚の扉を開いてくれるキーマン。
熟してもなお硬さを保つからこそ、日持ちもよく、長く楽しめる――これは、やわらかい桃では得られない価値です。
さらに、えぐみや苦味がなく、甘さが際立っているという点にも驚かされました。
やわらかい桃とはまったく異なる世界を持つ、“硬い桃”。
ぜひ今シーズン、あなたもその魅力を味わってみませんか?