SAGA Farm to Table|中村シェフとめぐる佐賀県食材の産地 ~一皿の裏側を訪ねて~
生産の現場を訪れ、生産者と向き合い、そこで育った食材を味わう。
ラ・ボンヌターブルの中村シェフにとって初めての佐賀県訪問は、食材の背景にある風土や人の営みを、改めて肌で感じる時間となりました。畑や漁港で見た景色、交わした言葉、手に取り、口にした瞬間の印象。そのすべてが、料理の輪郭を少しずつ形作っていきます。
今回のSAGA Farm to Tableフェアで提供される料理は、そうした現地での体験を起点に生まれたもの。佐賀の土地と生産者の想いに触れたこの訪問が、料理として形を変え、皆さまのもとへ届けられます。
今回訪問した佐賀県内の生産者さん
<佐賀市>
とまと屋ファーム江島


とまと屋ファーム江島のトマトは、糖度や見た目の美しさだけでなく、酸味と甘みのバランス、凝縮された旨味を大切にしているのが特徴です。一般的なスーパーのトマトとは一線を画す、濃厚で味わい深い味わいは、現地でも「一度食べたら忘れられない」と評されています。
代表的な品種のひとつが、「ひばりトマト(サンロード種)」。栽培が難しく病気にも弱い繊細な品種ですが、ミネラル豊富な土壌と気候、そして長年培われた栽培技術によって、その個性が引き出されています。また、カラフルなミニトマトも栽培しており、色合いの違いだけでなく、それぞれ味わいも大きく異なるのが特徴です。
江島さんは地域とのつながりも大切にしており、初夏には広い麦畑を使ったイベントを毎年開催。農業を通じて、人と地域をつなぐ取り組みも続けています。
実際に畑でトマトを味わった中村シェフからは、「正直、大玉トマトはあまり使ってこなかったんです。味が凝縮していて扱いやすいミニトマトを選ぶことが多かった。でも今回のトマトは、香りも含めてトマト本来の味がしっかりあって、ミニトマトにはないおいしさを感じました。ミニトマトも色ごとに味の個性があり、畑で食べ比べる体験そのものが楽しくて、この感覚を料理でうまく表現できたらと思っています。」畑で感じた「楽しい」「おいしい」という素直な感覚が、このトマトを使った料理の出発点になっています。
<佐賀市>
渋田いちご園


佐賀市の田園風景の中にある渋田いちご園は、丁寧な栽培で味わい深いいちごを届ける農園です。「いちごさん」「さがほのか」「やよいひめ」「パールホワイト」など、複数の品種を育てています。
印象的だったのが、澁田さんのこの言葉。
「今まで一度たりとも、100点満点と言えるいちごを生み出せていないんです」
甘さや酸味のバランス、香りや食感まで含め、理想とする味の基準は高く、それでも毎年、環境や畑と向き合いながら「今できるベスト」を積み重ねてきました。
澁田さんが目指すのは、甘いだけで終わらないいちご。甘味と酸味の質とバランス、食べ終えたあとに残るコクや香りまで含めた、厚みのある味わいです。五感で生育を感じ取りながら、自分の目が届く範囲に限定して栽培しています。
その場で香りや味を楽しみながら、中村シェフから 「白いちごは見た目だけでなく味が赤いいちごとまったく違ってとても美味しい。いちごだけれど尖りすぎず、丸みがあり、白桃のような印象や、ミルクが混ざっているような味わいがあってとても面白い。たくさんの種類のいちごに触れた楽しさをお客様にも届けたい」という声も聞かれました。見た目の驚きと味わいの奥行き、その両方が印象に残るいちごです。
<佐賀市>
ミルン牧場


佐賀市・脊振高原にあるミルン牧場の牛乳は、一般的な牛乳のように飲みやすさだけを目指すのではなく、牛乳本来の香りや味わいを丁寧に生かすことを大切にし、牛の飼育から商品製造まで一貫して手がけています。
標高600メートルの澄んだ空気と豊かな自然の中で乳牛を育て、生乳本来の味わいを生かした乳製品づくりを行っています。牛舎には、牛をつながない開放牛舎を採用。こうした飼育方法によって牛はより自然に近い、健やかな状態で過ごすことができるといいます。
搾りたての生乳は自社工場で低温長時間殺菌・ノンホモジナイズ製法により丁寧に加工され、濃厚でコクのある牛乳やヨーグルト、チーズ、ソフトクリーム、アイスクリームなど多彩な乳製品として届けられています。牛乳は、余計な加工がされていないため、生クリームがほんのり表面に浮いてできる『クリームライン』が特徴的で、味はほんのり甘い仕上がりです。
牛乳とアイスクリームを味わったシェフからは、 「味がすごく濃いのに、驚くほど飲みやすい。嫌な癖のある牛乳香ではなく、牛乳本来のポジティブな香りと美味しさが際立っている。普段牛乳を使用する際は、バニラやトンカ豆、トリュフ等の香りをつけて使用することが多いですが、この牛乳は何も足したくないです。」何も足したくないと思わせるほど、牛乳そのもののおいしさが際立つ味わいです。
<唐津市>
佐賀玄海漁協魚市場


唐津市にある佐賀玄海漁協魚市場は、玄界灘に面した全国でも有数の水産拠点です。対馬暖流と沿岸の冷たい海流が交わる唐津の海は、潮の流れが速く、身の締まった魚が育つことで知られています。
この魚市場の大きな特長のひとつが、全国でも珍しい「活魚の状態でセリが行われる」こと。水揚げされた魚は生きたまま市場に運ばれ、鮮度と状態を直接見極めながら取引されます。また、高度な冷凍・処理・梱包技術にも力を入れています。
市場を訪れたシェフは、普段あまり目にすることのない地域特有の魚や希少な魚種にも興味津々。水槽を覗き込みながら、「この魚はどう使えるだろう」「どんな料理に向いているだろう」と、生産地ならではの魚との出会いを楽しんでいる様子が印象的でした。
実際に魚を使ったシェフからは、こんな声も。 「魚は、頭や骨の処理もきれいで、現場では助かります。イカは、冷凍と相性が良い食材ですが、それを差し引いてもクオリティが高かったです。プロでも『これ冷凍?』と気づかない人が多いレベルで、パッケージまで含めてよく考えられていると感じました。」素材のポテンシャルだけでなく、処理・保管・届け方まで含めて設計されているからこそ、プロの目にも「完成度の高い魚」として映ります。
<唐津市>
ヨネクラ園芸


唐津市で約30年にわたりモロヘイヤを『通年生産』しているヨネクラ園芸。春から秋にかけての生産が一般的なモロヘイヤですが、ヨネクラ園芸では冬期間に暖房を使用することで、一年中の生産を可能にしています。また、ビニールハウス栽培のため、柔らかく・歯触りが良く・茹でた時の青臭さがほぼ無いのが特徴です。
モロヘイヤは午前中に収穫し、並行してすぐにパッキング作業へ。しかし、できるだけ良い状態で届けたいとの思いから、モロヘイヤにたまった熱を冷蔵庫で一晩かけてしっかり取り除いてから出荷されているとのこと。土づくりにもこだわり、同じ唐津地域の農家から譲り受けた堆肥に、キノコの菌床や米ぬかを混ぜ、微生物が活発に働く環境を整えられています。
また、冬にはアイスプラントも栽培。光を受けて葉の表面がキラキラと輝く姿は幻想的で、口に含むとやさしい塩気と、シャリっとした独特の食感が印象に残ります。
畑で取れたてのモロヘイヤを試食し、「ここまで繊細にねっとりする食べ物はなかなかない。刻めばさらに粘りが出て、主役というより料理をつなぐ役割としてすごく可能性を感じました。年中つくれるというのは大きな価値で、夏に思いつかなかったアイデアが、今は浮かんできています」アイスプラントについても、「まず、とても美しい食べ物だなって思いました。また、今までは使用してこなかったですが、一番良い状態のもの食べて、初めてちょっと使ってみたいなと思いました」とのこと。使い慣れた食材も、初めて出会う食材も、最良の状態で向き合うことで、料理の発想は自然と広がっていきます。
<唐津市>
ベリーレアファーム


唐津市で、園の名前の通り、希少みかんをビニールハウスで栽培するベリーレアファーム。おいしいものの栽培が難しく、世の中にはなかなか出回らない品種を選んで栽培しています。
ハウス栽培では、水管理が出来る為、夏から秋にかけて水をほとんど与えず、実を凝縮させることで、濃厚な味を実現。もちろん水を与えると実は大きくなり、収穫量も増えるものの、味を優先して栽培をされているとのこと。
ベリーレアファームの代表的な品種「浜王」は、浜王は、栽培の難しさと収量の少なさから一般流通には乗らず、世の中にほとんど知られることなく、ひそかに途絶えていったみかんでした。現在、浜王を栽培している農家は日本でもごくわずか。 糖度は12度以上としっかり甘く、果肉はプチプチと弾けるような食感が特徴です。
シェフからは、「普段温州みかんを食べている人からすると、かなりインパクトのある、力強いみかんだと思います。だからこそ、レストランではデザートとして使いやすい。味が立っているから、表現の幅が広がります。」との声も。日常的な果物として親しまれているみかんも、品種や個性によって、まったく違う表情を見せます。
<唐津市>
ささき農園


唐津市で、有機の自然薯・野菜づくりに真摯に向き合うささき農園。唐津の温泉が湧く清涼な山々を守るため、化学農薬や化学肥料を使わず安心安全で美味しい野菜を育てています。
人は、サプリメントや薬に頼るよりも、自然の野菜をしっかり食べて育った身体のほうが、より丈夫で健康になる。ささき農園は、そんな「医食同源」の理念を大切にしています。
手間と時間を惜しまず育てた土で育つ自然薯は、美白で粘りが強く、栄養価も高い、まさに「身体をつくる食材」としての力を備えています。
交通事故をきっかけに人生と向き合い、環境問題に目を向け、11年にわたる試行錯誤の末にたどり着いたオーガニック自然薯。ささき農園の自然薯は、味わいだけでなく、どう生き、どう食べるかという問いに静かに応えてくれる存在です。
訪問の中で印象的だったのが、山の中で調理されたシンプルな自然薯のフリット。これを口にしたシェフは、 「米油でほんの数秒揚げただけという調理にもかかわらず、カリッとして中がねばっとしていて、シンプルだけど、とても美味しかった。白子のフリットを食べているような感覚で、それを野菜で表現できるのが面白い」と、新しい可能性を感じたといいます。
<神埼市>
とんぼ農園


神埼市脊振町、標高約350mの山間地で、土づくりを何よりも大切に野菜と向き合ってきたのがとんぼ農園です。栽培しているのは、ほうれん草のみ。ひとつの野菜に向き合い続ける姿勢が、この農園の大きな特徴です。
食べチョクでは登録以来、多くの評価と支持を集め、2023年には食べチョクAWARD総合1位を受賞するほどの人気生産者として知られています。
創業当初は、技術も道具も経験もない状態からのスタートだったとのこと。何度も失敗を重ねながら、理想のほうれん草を追い求め、血と汗と涙の積み重ねから生まれた野菜は、まさに「魂のほうれん草」と呼ぶにふさわしい存在です。
そんなとんぼ農園が特に力を入れているのが、土中環境を整える土づくり。独自の土中発酵農法を取り入れ、善玉菌がしっかりと働く土を育てることで、根がのびのびと張り、ほうれん草が本来持つ力を引き出しているとのこと。土そのものを健康に保つことで、葉の厚みや軸の甘さ、えぐみの少ない味わいにつながっています。
シェフは、「茹でてソースにした時の味の良さ・使いやすさが際立っていました」と語ります。また、「生えたままのほうれん草を口にし、切りたての軸の甘さや葉の厚みを確かめる中で、もっと美味しく生かせるヒントがたくさん見えてきました。これを活かして、いろいろと挑戦してみたいと思っています。」と、その可能性に期待を寄せられました。
佐賀の現地で感じた空気や、生産者との会話、そしてその場で味わった確かな美味しさ。その一つひとつが、料理の中に自然と溶け込んでいます。
佐賀の食材が持つ力を、どうすれば一番気持ちよく伝えられるか。そんな問いから生まれた一皿となっています。
このフェアを通して、料理の向こう側にある佐賀の風景や人の顔を、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。