「過去最悪の不漁」でも諦めない。青森のホタテ漁師が貫く“世界一うまい”への執念
海水温の上昇が、日本の海に静かな、しかし深刻な変化をもたらしています。
青森県の陸奥湾で育つホタテも例外ではありません。3年連続で水揚げ量は減少し、今年は「過去に例を見ない」例年の2割ほどしか獲れないという、壊滅的な状況に陥っているのです。
「自分たちの努力とは別の問題があって、うまくいかない」
そう語るのは、青森県でホタテ漁と加工を手掛けるほたての山神 営業部営業二課課長の東山さんです。
逆境の中、彼らがなぜ前を向き続けられるのでしょうか。
その原動力は、「自分たちが育てた世界一美味しいホタテを、美味しいままお客様に届けたい」という、創業から変わらぬ熱い思いです。
猛威を振るう環境変化。「漁師の給料が2割になったら?」
ホタテは元来、寒い海にしか生息できない生き物です。しかし、近年の海水温上昇により、夏バテして餌を食べなくなり、餓死してしまうホタテが増えています。 「例えば、自分のお給料が2割になったらどうですか?」東山さんは問いかけます。それが今の漁師たちが直面している現実 。漁師・加工業者には支援がなく、在庫を高く売るしかないのが実情だそうです。
この状況が続けば、廃業する加工業者も出てくるかもしれません。加工業者がいなくなれば、漁師がいくらホタテを水揚げしても買い手がつかず、産業全体が縮小してしまうのです。ほたての山神は、ライバル会社でさえも「潰れないでほしい」と願うほど、業界全体に危機感を抱いています。
東山さんは、もどかしさも口にしています。「地球温暖化なんて何十年も前から言われているのに、なぜ高温に強いホタテの品種改良などに取り組んでくれなかったのか」。米が品種改良を重ねてきたように、対策を打つ時間はあったはずーーー

「まずいホタテ」が原点。漁師が加工会社を作った“ありえない挑戦”
ほたての山神の歴史は、ひとりの漁師の怒りと悲しみから始まりました。
以前、創業者が東京の築地市場で、自分たちが育てたはずの陸奥湾のホタテを食べたところ、「全く美味しくなかった」そう。原因は、当時の加工会社での扱いや、輸送中に常温で放置されるなどの品質管理の問題でした。
「世界一うまいホタテを作ったはずなのに…これではいかん。自分で一番美味しいホタテを、美味しいまま届けよう」
この一心で、創業者は加工会社の設立を決意しました。
しかし、それは生産者(漁師)と加工業者の役割分担という業界の仕組みを壊す行為であり、周囲や家族からも猛反対されました。創業当初は大変な苦労を強いられたそうです。

旨さの秘密は“本物の海水”と“職人魂”。山神が譲れないこだわり
周囲の反対を押し切ってまで実現したかった「美味しさ」。
その核となるのが、徹底した品質へのこだわりです。
海のすぐそば、敷地の10m先に海が広がる場所に工場を建設。専用の海水処理施設も作り、海水をすべての加工工程で使えるよう仕組みを整えました。これにより、ホタテの旨味を一切逃さないのです。
水揚げされたホタテは車で5分の距離にある工場へ直送されます。漁港に着いてからわずか5分後には、もう加工が始まります。この圧倒的なスピードが、究極の鮮度を生み出しているのです。ホタテ漁師が加工場を持ち、全工程で海水を使える会社は、青森県内でも極めて貴重な存在だそうです。
また、ほたての山神の品質は、従業員一人ひとりの意識に支えられています。
東山さんが入社当初、品質管理の勉強のためにホタテを手に取って見ていると、
パートの従業員から「あんたが持ってたからホタテが温まった!」と本気で叱られたそうです。
彼女たちは、菌の増殖を抑えるには温度管理が重要だと、経験から理解しているのです。それはマニュアルではなく、会社に根付いた「企業文化」そのものです。
「透き通った海ではホタテは生きられない」―本当の豊かさとは
ある時、ほたての山神の社長が東山さんにこう尋ねたそうです
「この(群青色の)海が透き通ったらどうなると思う?」
「海水浴ができますね」と答えた東山さんに、社長はこのように言ったそうです。「ホタテは生きられない。この色は海の養分や微生物そのものなんだ。人間目線できれいな海にした時、ホタテは生きられない。生き物たちがちゃんと生きられる海こそが、本当のきれいな海なんだ」。
この言葉に、東山さんは「きれいな海」に対する価値観が覆されたそうです。
社名の「山神」は、山の雪解け水が運ぶミネラルが陸奥湾の豊かさを育んでいることから、「山を大切にしよう」という思いを込めて名付けられたそうです。彼らは、目先の利益だけでなく、生態系全体のつながりを見据えています。
あなたの「おいしい」が、漁師を支え、未来をつくる
ほたての山神には、美味しいホタテを消費者に届けることと同じくらい大切な使命があります。それは、消費者の「おいしい」という喜びの声を、漁師たちにフィードバックすることです。
「自分たちが育てたホタテが、全国の人に食べてもらえているんだよ」
そう伝えると、漁師たちの目の色が変わるそうです。そのモチベーションが、さらに質の良いホタテを生み、巡り巡って私たちの食卓に届く。消費者、加工業者、生産者の三者が一体となって、美味しさの好循環を生み出しているのです。
かつて魚介類が苦手だった東山さんを
「甘い!まるで茹でたてのトウモロコシだ」と感動させた山神のほたて。最後に、おすすめの食べ方を聞きました。
「一番美味しいのは、そのまま食べること。でも、それだけじゃ味気ないので、鶏肉料理をホタテに置き換えてみてください。癖がないので何にでも合いますし、一気にレパートリーが広がりますよ」。
厳しい自然環境との闘いは、これからも続くでしょう。しかし、一粒のホタテに込められた彼らの情熱と物語を知れば、私たちの食卓はもっと豊かになるはずです。
その「おいしい」の一言が、青森の海と漁師の未来を照らす一筋の光になるのです。
食べチョク ホタテを食べて応援 プログラム
現在、食べチョクでは「#ホタテを食べて応援 プログラム」を実施中です。
2025年12月31日までのお届けで【送料無料】にて、生産者さんがこだわって育てたホタテを楽しめます。
多くの日本の食卓にホタテが並び、日本のホタテを楽しむ方が増えますように。ホタテや冷凍ホタテがはじめての方も、この機会にぜひお楽しみください。