十勝の大地から、新しい味覚。メムロピーナッツの“生落花生”物語
北海道・十勝で芽吹いた挑戦
「落花生」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか? 一般的に、おつまみや豆菓子として親しまれる乾燥ピーナッツを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、もし「収穫したてを塩ゆですると、まるで枝豆のようにホクホクで甘い」という、北海道・十勝ならではの特別な味わいの落花生があったとしたら?
北海道十勝地方の中央部に位置する町「芽室町」。
広大な大地で、この新しい味覚の可能性に挑むのが、メムロピーナッツ(通称メムピー)代表の藤井さんです。日本の食料基地とも呼ばれるこの地で、なぜ彼はこれまでほとんど栽培されてこなかった落花生に情熱を注ぐのか。その挑戦の物語をご紹介します。
藤井さんは、代々続く農家に生まれながら、若い頃は農業を継ぐつもりはなく、会社勤めをしていました。
しかし最終的に実家の農業を継ぐことを決意。その後、地元の青年部が「十勝で新しい作物を広めよう」と取り組む姿に触れ、落花生と出会います。生姜や蒟蒻芋など、十勝ではまだ根付いていない品目の試験栽培が行われるなか、最終的に残ったのが「落花生」でした。北海道ではほとんど栽培されていなかったこの作物を地域に根付かせようと、藤井さんはメムロピーナッツを立ち上げました。
「十勝からピーナッツを発信したい。この土地だからこそできる農業で、地域の新しい特産物をつくりたい。」
藤井さんはそう語ります。農業を継ぐ決意の背景には、ただ作物をつくるだけでなく「地域を盛り上げる存在になりたい」という強い思いがありました。
大規模農業と“生落花生”の魅力
十勝の農業の大きな特徴のひとつが「輪作」です。じゃがいも→小麦→豆→ビートと、4〜5年のサイクルで作物を入れ替えて栽培することで、土壌を疲弊させず、病害を防ぎます。これは広大な畑を持つ大規模農業だからこそできる方法であり、藤井さんもその仕組みのなかで落花生を組み込み、新しい価値を生み出しています。
藤井さんの畑で育つ落花生は、私たちが普段目にする「乾燥ピーナッツ」とは異なります。一般的な乾燥ピーナッツは、収穫された落花生を乾燥させてから出荷されますが、藤井さんが提供するのは、収穫したての旬の時期にしか味わえない「生落花生」です。
生のまま収穫された落花生を塩ゆですると、口いっぱいに広がるのはホクホクとした食感と、豆本来の甘み。まるで枝豆のように手が止まらなくなる味わいに、「これが落花生なの!?」と驚く人も少なくありません。北海道ならではの寒暖差のある気候が、この甘さを一層引き出しています。まさにこの土地だからこそ味わえる旬のごちそうです。

地域を巻き込む力
藤井さんの挑戦は畑の中だけにとどまりません。毎年10月に仲間の農家や飲食店と協力して開催するのが、「芽室落花生祭り」です。来場者が畑に入り、自分の手で落花生を抜き取ったり、収穫体験をしたりできるユニークなイベントで、会場にはピーナッツを使った料理を提供するブースも並びます。
「農家ではない地元の人が畑に入る機会は少ない。だからこそ、楽しみながら落花生を知ってもらうきっかけをつくりたい。」
繁忙期にもかかわらず、実行委員として自ら企画・運営に携わる藤井さんの姿勢に、多くの人が心を動かされます。
さらに地元の飲食店とも連携し、ピーナッツを使ったスイーツやコース料理、スタンプラリーなどを実施。地域全体で「落花生文化」を育てようとする取り組みは、行政に頼らず自分たちで企画し実現する点でも大きな特徴です。農家同士が協力し合い、機械を共同購入するなど、大規模農業ならではのスケールと柔軟さを活かしながら、十勝全体を盛り上げています。

藤井さんの思いとこれから
藤井さんの根底にあるのは、「農業を大変なものとしてではなく、楽しい・かっこいいものとして見てもらいたい」という想いです。そのために、落花生を通じて地域の人々に農業を身近に感じてもらえる機会を増やしたり、アパレルの展開で農業をライフスタイルとして表現したりと、さまざまな挑戦を続けています。
「十勝をピーナッツの産地としてもっと広めたい。まずは一度、生落花生を味わってもらえれば、その魅力は必ず伝わるはずです。」
そう語る藤井さんの眼差しはまっすぐとしたものでした。食べチョクへの出品を始めたのも、より多くの人に落花生を届けるための一歩。今後は加工品開発や新しい販路開拓にも挑戦し、十勝のピーナッツを全国に広げていきたいと考えています。
十勝の新顔作物を、食卓へ
藤井さんの生落花生は、まだ全国でも限られた場所でしか手に入らない、まさに十勝が誇る旬の味覚です
。広大な大地での挑戦に情熱を傾ける藤井さんの想いとともに、この時期にしか味わえない特別な美味しさを、ぜひご家庭でお楽しみください。」