73歳のぶどう職人が挑み続けた半世紀 “農薬を使わない”自然栽培でつくる奇跡のピオーネ
日本は高温多湿で病害虫が発生しやすく、ぶどう栽培には農薬や化学肥料が欠かせないといわれています。
しかし岡山県の「亀の甲農園」三隅忠典さん(73歳)は、その常識を覆し、25年以上にわたり農薬・化学肥料を一切使わない“自然栽培”でピオーネを育ててきました。
小学生の頃からぶどう栽培に魅せられ、定年退職後は専業農家として畑に立ち続けてきた三隅さん。まさに人生をぶどうに捧げてきた職人です。

幼少期の経験から「絶対に農薬を使わない」固い決意
三隅さんの自然栽培のぶどう作りへの思いは、幼少期の経験が関係しています。
三隅さんが小学校1年生の6歳の時、父親が田んぼでの農薬散布の影響で体調を崩し亡くなりました。
ぶどう栽培を始めたのは、その数年後。「貧しかった家では高価で買えなかったぶどうを、自分で育てればお腹いっぱい食べられる」という純粋な思いからでした。
NHK「趣味の園芸」の教科書を読み、見よう見まねでの栽培が始まりましたが、そこには農薬散布に関する説明がずらりと並んでいました。父親の経験から農薬の危険性を痛感していた三隅さんは、中学生の時に「農薬・肥料を使用せずにぶどう栽培」に挑戦することを決意。その後も会社員として働きながら、その収入をぶどう園につぎ込み、数々の試行錯誤を重ねてきました。
「なぜ実がならないのか」と木の下で涙を流した日々もありました。それでも「山の木々は肥料を与えられずとも育つ」という問いを手掛かりに、土壌づくりを追求し続けました。
そして、長年の努力が実を結び、現在では自然栽培で満足のいく味のピオーネを作ることに成功。現在まで25年以上にわたり農薬・化学肥料を一切使用していません。

秘訣は「ふかふかの土壌」
三隅さんの自然栽培の根幹にあるのは、長年かけて培ってきた「土壌作り」にあると言います。
亀の甲農園の果樹園の土は、足を踏み入れると「ふかふか」と沈み込むほど。深さ1.5mにも及ぶ良好な腐植土の山であり、表面には「糸状菌(しじょうきん)」と呼ばれる白い糸状の微生物群がびっしりと生えています。
三隅さんは、この土壌こそが農薬や化学肥料がなくてもきちんと育つための秘訣だと語ります。
「味には誰にも負けない」グランプリへの絶対的自信
今回、三隅さんが食べチョク「ぶどうグランプリ」に挑むのは、「全国のぶどうを集めて競う場は滅多にないから」。
25年以上自然栽培で育てたピオーネは、えぐみや渋みがなく、澄んだ甘みが特徴です。
「作物は環境が悪いと身を守るため苦みや渋みを生みます。でも良い環境で育てば安心して甘みに集中できる。だから味は誰にも負けません」
全国のぶどうと並んだとき、その違いをぜひ確かめてほしい。三隅さんの挑戦が、9月11日の品評会で明らかになります。