「世界で3人しか作っていない品種も」──牧農園・牧壮一さんが挑む、多品種ぶどう栽培の革新
長野県須坂市の牧農園・牧壮一さん。かつて「農業が大嫌いだった」と語る元サラリーマンが、なぜぶどう栽培の道を選び、今や全国の“ぶどうマニア”から注目を集める存在となったのか。その挑戦に迫ります。

「農業大嫌い」から一転、ぶどうの魅力に目覚めた転身
転機は39歳のとき。会社員として働いていましたが、体調を崩し退職。
「自分の努力次第で可能性が広がるぶどう栽培なら挑戦できる」と決意し、実家のぶどう園を継ぎました。
その後、全国的に知られる長野県上田市・飯塚果樹園の飯塚芳幸さんのもとで2年間修業。そこでの学びが、現在の牧農園の基盤となりました。
希少品種への飽くなき探求
牧農園の特色は“多品種栽培”です。跡を継いだ当時、品種はシャインマスカットなどの王道を含めわずか4種類。しかし「定番だけでは埋もれてしまう」と考え、希少な苗や新しい品種を積極的に導入。
現在は販売品種だけで15種類、育成中も含めれば20種類以上を栽培しています。
「シャインマスカットのように競争が激しい市場ではなく、希少品種を育てることで価格も自分で決められる。付加価値をつけていきたい」と語ります。

「世界で3人しか作っていない」超希少品種もラインナップ
なかでも注目は超希少品種です。
・真沙果(まさか)
飯塚果樹園で誕生した品種。「まさかこんなぶどうがあるなんて」と命名された、鮮やかな赤色の超大粒ぶどう。パリッとした食感とあふれる果汁が特徴です。
• 姫果(ひめか)
真沙果とシャインマスカットを交配して生まれた品種。栽培しているのは、飯塚果樹園、牧農園、そしてもう一人の生産者のみ。「大げさに言えば、世界で3人しか作っていない」と牧さんは胸を張ります。
こうした品種を求めて、東京・石川・新潟・静岡・千葉など遠方からもファンが訪れます。「この品種が買いたかった」とわざわざ足を運ぶ熱心な愛好者も少なくありません。
気候変動との闘い
ただ、挑戦の裏には厳しい現実もあります。
今年は猛暑により「裂果」が多発し、ナガノパープルやシャインマスカットなどの粒が小さくなる被害が出ています。
「就農して以来、過去最小の粒サイズです」と牧さん。猛暑が続いた後に雨が降ると水を吸い過ぎて「裂果」が発生するためビニールシートを敷いて対策していますが、まだ十分ではなく、新たな工夫が求められています。


今回のぶどうグランプリ出品については「牧農園の実力を試したい。客観的に評価されるのは面白い」と話します。
出品候補は「真沙果」「プリモアモーレ」「長野パープル」「クイーンルージュ®︎」など複数検討中とのこと。
将来については「多品種栽培でお客様を楽しませるだけでなく、ぶどう狩りや後継者育成にも取り組みたい。ぶどう農家は儲かる仕事だと若い世代に示したい」と意気込みを語ります。
最後に牧さんはこう呼びかけます。
「ぶどうは何百種類もある。毎年1種類でも新しい品種に出会えば、自分の好きな味を見つけられるはず。ぜひ“新しいぶどうとの出会い”を楽しんでほしい」