土地と食の魅力を一緒に味わう“テロワージュ”。秋保ワイナリーのワインとは〜仙台から30分、温泉のその先で出会う一杯〜

2026/03/30 更新

仙台の奥に広がる、静かな谷の風景

仙台駅から車で30分ほど。街のにぎわいを離れて進むにつれ、景色はゆっくりと山あいの里へと変わっていきます。温泉地として知られる秋保の入口を抜けると、山に囲まれた穏やかな谷が現れます。

その一角に、ぶどう畑と、やわらかな光を取り込む建物が見えてきます。秋保ワイナリーです。空気は澄み、風はやさしく、どこか懐かしさを感じる風景が広がっています。

ここでつくられるワインは、ただ味わうためのものではありません。土地の風土や、そこに流れる時間、人の営みまでも含めて、一杯の中に映し出されているように感じられます。

秋保ワイナリーのページを見る

温泉地の里山に広がる、小さくて本格的なワイナリー

仙台市の中心部から車でおよそ30分。「仙台の奥座敷」とも呼ばれ、1,500年以上の歴史をもつ秋保温泉

郷のほぼ中心に、緑に囲まれたワイナリーが静かに佇んでいます。その名は「秋保ワイナリー」(株式会社仙台秋保醸造所)。

南北を山に囲まれた谷間に広がる自社農園は約2ヘクタール。名取川の渓谷から吹き上がる涼やかな風と、「秋保石」と呼ばれるミネラル豊富な凝灰岩(ぎょうかいがん)を含む土壌が、ここだけで生まれる個性豊かなワインを育んでいます。メルロー、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネールなど10品種のぶどうを栽培し、その年のぶどうの表情を丁寧に引き出すワイン造りが続けられています。

2015年12月のオープン以来、醸造設備を見学できるスペース、宮城の特産品が並ぶショップを備え、2024年8月からは旬の食材とワインを楽しめるレストラン「テロワージュ秋保」がオープンし、平日でもランチ時には満席になるほどの人気ぶり。いまや県内外から多くの方が訪れる、秋保観光の「顔」ともなっています。

震災が変えた人生 ―「ワインで東北を元気にしたい」

秋保ワイナリー誕生の背景には、2011年3月11日の東日本大震災があります。代表取締役の毛利親房(もうり ちかふさ)さんは、もともと仙台市内の設計事務所で働く建築家でした。震災後、女川町など被災した自治体の復興計画づくりに深く関わるなかで、毛利さんはある現実に直面します。

沿岸部の農家や漁師たちは、震災で田畑や船を失っただけでなく、長年築いてきた販路までも断絶されてしまっていました。「生産者が報われるような仕組みをつくれないか」。そんな問いを抱え続けた毛利さんが行き着いた答えが、ワイナリーの設立でした。

「ワインは食との結びつきが強く、地域の魅力をつなぐ力がある」。宮城産のワインができれば、それに合う料理として牡蠣、ほや、仙台牛など沿岸・内陸の食材が自然と注目される。生産者が輝くための「舞台装置」として、ワイナリーを起点とした食の循環を描いたのです。

2014年に農園の開墾を開始。ボランティアの方々と一緒に汗を流しながらぶどう畑を切り開き、試行錯誤を重ねること1年余り。2015年12月、ついに秋保ワイナリーは産声を上げました。震災で途絶えていた宮城のワイン造りを復活させた、復興の象徴的な一歩でした。

毛利さんが描く秋保温泉の次世代 ― 秋保の未来を切り拓く仕掛け人

いま、秋保という地域を語るうえで欠かせない人物が毛利親房さんです。ワイナリーの代表を務めながら、2024年には地元の仲間とともに「秋保バレー協議会」を立ち上げ、秋保の里全体を一つの「バレー(谷・産地)」として世界へ発信するプラットフォームを築きました。

毛利さんが特に力を注いでいるのが、秋保への誘客です。「仙台は牛たんを食べて、ちょっと買い物をして帰る通過点になってしまっている」と語る毛利さんが目指すのは、食と土地と人の物語を五感で体験できる場所づくり。ワインと地元食材のマリアージュ(組み合わせ)に感動した海外からのお客様が、その体験を自ら世界へ発信していく好循環を秋保から生み出そうとしています。

建築家として磨いた「場をデザインする力」と、復興支援で培った「人と地域をつなぐ視点」。その両方を持つ毛利さんのもとには、新しいクリエイターや移住者が引き寄せられるように集まり、秋保はいま静かな変革期を迎えています。

毛利さんの真っ直ぐな思いと、行動力は、多くの人を魅了し、単なる観光地ではなく訪れる理由のある土地として秋保の価値を再定義し続けています。

その積み重ねは、点ではなく線となり、やがて地域全体のブランドへと昇華していく。

秋保の未来は、誰かが用意したものではなく、関わる人たちの意思と挑戦によって形づくられていくもの。

毛利さんはその先頭に立ち、次の世代へとつながる新たな風景を、この秋保に描き続けています。

「テロワージュ」って、どんな体験?

秋保ワイナリーを訪れた方が思わず気になってしまうのが、「テロワージュ」という言葉です。これは毛利さん自身が考案した造語。フランス語で気候・風土・人の営みを意味する「テロワール」と、食とお酒の組み合わせを意味する「マリアージュ」を掛け合わせたもので、「その土地で、その土地の食材と、その土地のお酒を一緒に味わう」という豊かな体験を表しています。

その体験を存分に楽しめるのが、ワイナリー併設のレストラン「テロワージュ秋保(TERROAGE AKIU)」です。「究極のマリアージュは産地にあり」をコンセプトに、秋保周辺の農家が育てた野菜や宮城・東北の旬の食材を使ったイタリアン料理を、自社醸造ワインとともにいただきます。ぶどう畑と秋保温泉街を眺めながら楽しむテラス席のピクニックランチも大人気です。

赤ワインとしめ鯖、シードルとマグロのトロ、ピノ・グリと牡蠣のアヒージョ――宮城ならではの食材と自家醸造ワインが生み出す組み合わせは無限大。訪れるたびに新しい発見がある、そんな場所です。

「テロワージュ東北」へ ― 食のムーブメントが東北全体に広がる

秋保から生まれた「テロワージュ」の思想は、いまや東北6県に広がるムーブメントとなっています。毛利さんが主導する「テロワージュ東北」は、東北各地の生産者・シェフ・酒蔵が手を結び、地域の食文化を掘り起こして発信していくプロジェクトです。伊達武将隊とのコラボレーションによる「伊達のテロワージュ」をはじめ、生産地を巡るツアーやキッチンカー企画など、楽しい体験が次々と生まれています。

品質への評価も着実に高まっており、アジア最大規模のワイン審査会での受賞や、ジャパンシードルアワードで最高評価の3つ星を獲得するなど、世界にもその名が知られるようになりました。また、秋保ワイナリーに刺激を受けた新しいワイナリーが宮城県内で次々と誕生しており、東北全体のワイン文化の底上げを担うパイオニアとしての存在感も増しています。

震災という悲しみを出発点に、一人の建築家が「食で東北を元気にしたい」と抱いた想い。それはいま、秋保の大地に深く根を張り、東北全体を包む大きな物語へと育っています。秋保ワイナリーを訪れることは、宮城の風土と人の営みが凝縮した一杯のワインを手に、この土地の物語を味わう旅に出ることです。ぜひ一度、秋保へ足を運んでみてください。

【施設案内】秋保ワイナリー(株式会社仙台秋保醸造所)

所在地:宮城県仙台市太白区秋保町湯元枇杷原西6
営業時間:ショップ・カフェ・見学 9:30〜17:00 / レストラン 11:00〜17:00(ランチ 11:00〜15:30 / ディナーは要予約)
定休日:火曜日
アクセス:仙台市中心部より車で約30分
ウェブサイト:https://akiuwinery.co.jp/

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