生産現場で起きている盗難被害。被害に遭った生産者の声
収穫期を迎えるたび、各地で相次ぐ生産物・漁獲物や資材等の盗難被害。
丹精込めて育てた生産物が奪われたとき、生産者には何が起きるのか。そして盗まれたものは、思わぬ形で私たち消費者の前に現れることもあるといいます。
今回は、食べチョクに登録している生産者を対象に行った盗難被害に関する実態調査とともに、過去に盗難被害に遭った経験のある生産者にお話を伺いました。
データで見る、生産現場の盗難被害
食べチョクが2026年7月、全国の生産者179人に行った調査から、私たち消費者にも関わりの深い数字をご紹介します。
生産者の約半数が、盗難被害を経験している


「盗難被害に遭ったことはない」と答えた生産者は49.7%。裏を返せば、約半数が何らかの盗難被害に遭った経験があるということです。
しかも被害に遭った人の7割以上(73.1%)が2回以上被害を受けており、中には21回以上という回答も。一度きりの災難ではなく、繰り返し狙われている現実があります。
被害は「収穫期の畑」に集中する


被害が起きたタイミングを尋ねたところ、約6割(60.3%)が「収穫期間中」と回答。畑や樹になっている状態のまま持ち去られるケースが中心です。
被害の発生場所は「畑・田」が46.8%、「果樹園」が32.2%と、この2つで大半を占めました。
約8割が「未解決」のまま

被害に遭っても、警察に相談・通報していない生産者は47.4%。通報しても事件化しなかったケース(30.8%)と合わせると、約8割が実質的に未解決のままです。
相談・通報した人のうち、犯人が捕まっていないという回答も47.5%にのぼりました。
つまり、盗まれた生産物の多くは、その後の行方がわからないままになっています。
被害の傷は、お金だけではない

被害後の影響として最も多かったのは、「精神的な苦痛・不安が続いている」で54.4%。次いで「出荷・取引先対応に支障が出た」(19.0%)、「借入・資金繰りが悪化した」(8.9%)と続きます。
「廃業・離農を検討している」という回答も2.5%ありました。
対策したくても、できない

対策を進めるうえでの障壁として最も多く挙がったのは、「費用・コストが高い」(63.9%)。次いで「電源・通信環境がない」(35.6%)、「農地が広大で対策が困難」(33.3%)が続きました。
広い畑に電気も通っていない場所で、防犯カメラを設置するのは簡単なことではないことが回答からも伺えます。
出典:株式会社ビビッドガーデン「盗難被害に関する生産者アンケート」(2026年7月23日〜27日実施/回答179人)
※本調査の回答者は食べチョクに登録している生産者に限られます。
生産者に聞く、盗難被害の実態
南アルプスこまの園さんの経験
さくらんぼの盗難被害に遭われたのはいつ頃のことですか。
2024年のことです。6月に入ってから収穫を予定していて、その準備をしている最中にやられてしまいました。
被害の状況について、目撃情報などはあったのでしょうか。
夕方の暗くなる前、4時から6時くらいの時間帯に、カバンを持った男が網をくぐって畑から出ていくのを、近所の方が目撃していたそうです。
深夜ではなくその時間帯で、しかも農家のような格好をしていたとなると、まさか泥棒だとは思わないですよね。
服装も時間帯も、まわりが気づきにくい状況だったのですね。
でしょう。普通はなかなか気づかないと思います。
被害に気づいたのはどのようなタイミングでしたか。
反射マルチシート(果実に太陽の光を当てるために地面に敷く反射シート)を敷こうと畑に入ったときでした。
ふと「あれ?赤いのが少なくなったような」と違和感があって。最初は本当に「?」しか浮かばなかったんですが、少し経ってから「あ、これはやられているな」と気づきました。
そのとき、どんな気持ちでしたか。
正直に言うと、まず頭に浮かんだのは「お客様の注文に応えられるだろうか」という心配でした。
よく見ると、いいものだけを選んで盗っていく、そういう盗られ方でしたね。

被害後の対応はどのように進みましたか。
現場検証には2〜3時間立ち会いました。その間は他の作業も一切できず、収穫期の忙しい時期だっただけに、正直困りましたね。
それでも、その場で言われたのは「無理でしょうね〜」という一言。足跡は見つかったんですが、それでも犯人特定は難しいと。
時間を割いて立ち会ったのに、結局捕まえることもできない。やるせない気持ちでした。
被害の規模はどれくらいでしたか。
50kgほど、金額にすると50万円くらいの被害でした。
南アルプスこまの園さんは、さくらんぼだけでなく桃も生産されています。市場やSNSで安すぎる価格の農産物を見かけることについて、生産者としてどう感じますか。
SNSでは、「桃が大好き!安くたくさん食べたい!」という声をよく見かけます。ただ、桃は手間暇がかかる果物なので、極端に安いものには、何かしらの理由があると思っています。
価格と盗難に、つながりを感じることはありますか。
つながっていると思います。安く食べたいという需要がある限り、そこに応えるように安く売る人も出てきますし、盗まれたものがそういうルートに流れていくこともある。
この循環は、なかなか止められないと思っています。
生産者として、消費者に伝えたいことはありますか。
桃は色がしっかり入っているものの方が、味がしっかりしています。私たちはそこに手間暇をかけています。
その手間が値段の差になっている、と思ってもらえたら。好みは自由ですが、それだけは伝えたいです。
最後に、今後の対策についてお聞かせください。
正直、残念だったなと消化するしかない部分もあります。防犯カメラの設置など、できることから対策を進めています。
ゆうなfarmさんの経験
パイナップルの盗難被害に遭われたのはいつ頃のことですか。
2024年のことです。出荷を始めてから2〜3年目のタイミングでした。
被害を知ったときは、どんなお気持ちでしたか。
信じられない、という気持ちが正直一番でした。まさかうちが被害に遭うなんて、と唖然としましたね。
被害にはすぐ気づかれたんですか。
うちはそこまで規模が大きくないので、畑を見ればすぐにわかる状態でした。
作業していて「次はどこの作業をしようかな」と畑を眺めていたら、「あれ?あの一画おかしいぞ?」と。どうやらやられたな、と。
車を横付けできる場所だったので、そのまま積んで持って行かれたのだと思います。
今思えば、その少し前に畑にタバコの吸い殻が落ちていたことがあって、もしかしたらあの時に下見されていたのかもしれません。
被害後の対応はどのように進みましたか。
実況見分(警察による現場の確認)もしてもらいましたが、当時は防犯カメラをつけていなかったので、結局どうにもなりませんでした。
立ち会いには1時間ほど時間を取られましたね。今はカメラもセンサーもつけていて、防犯対策は万全です。

出荷や予約への影響はありましたか。
被害が発覚してから、予約は一旦止めました。
被害の規模はどれくらいでしたか。
金額にすると50万〜100万円ほどです。ちょうど新規就農で経費がたくさんかかる時期だったので、資金繰りにはかなり苦労しました。
それでも、新規就農の助成金があったので、なんとか持ちこたえられました。
消費者に伝えたいことはありますか。
あまりにも安すぎるものは、一度疑ってほしいです。適正価格で買っていただきたいですし、買う側にもぜひ知識をつけてほしいと思います。
調査・インタビューを終えて
お二人のお話に共通していたのは、盗難が「収穫物を失う」だけでは終わらない、ということでした。
現場検証への立ち会いで作業時間を奪われ、資金繰りに苦しみ、生活にまで影響が及ぶ。その一方で、犯人が捕まることはほとんどありません。
そして、もう一つ印象的だったのは「安すぎる農産物には理由がある」という言葉です。
「安くたくさん食べたい」——その気持ち自体は自然なものです。
ただ、その値段がどんな経緯で成り立っているのかは、買う側からは見えにくいのが実情です。
適正な価格には、生産者の手間暇と技術、そして誠実さが詰まっています。
「なぜこの値段なのか」を少しだけ想像してみること。それが、手間をかけて生産に向き合う生産者を支えることに、つながるのかもしれません。