仙台の奥にある“美酒と美食の土地”。1泊2日の秋保ガストロノミーツアーレポート
秋保で味わうガストロノミー
仙台駅から車で30分ほど車を走らせると、街の景色はゆっくりと変わり始めます。
ビルの並ぶ都市の景色が少しずつ遠ざかり、やがて山に囲まれた穏やかな里山の風景が広がっていきます。
今回訪れたのは、そんな秋保の食と酒の魅力を体験するツアー
「仙台秋保 テルマエ酒紀行 〜 美酒と美食に出会う一泊二日 〜」。
ワイン、ビール、ウイスキー。
仙台が誇る酒文化を巡りながら、この土地の食と自然を体験するガストロノミーツアーです。
ガストロノミーとは、単に美味しい料理を食べる旅ではありません。
その土地の食材や文化、自然、そして造り手と出会いながら、地域そのものを味わう旅のことを指します。
秋保という土地には、その体験を成立させる魅力が詰まっていました。
秋保のクラフトビールから始まる旅
ツアーの最初の訪問先は、秋保温泉街にあるクラフトビール醸造所グレートデーンブリューイング。
アメリカ・ウィスコンシン州で長くクラフトビール文化を牽引してきた「Great Dane Brewing」の日本拠点として誕生。
山に囲まれた秋保の自然環境に惹かれ、この場所に醸造所とレストランを構え、地元の食材とクラフトビールを楽しめる場所として地域に新しい文化を生み出しています。
施設の中に入ると、大きな醸造タンクが並び、すぐ隣にはレストランスペースが広がっています。ここではクラフトビールを味わいながら、宮城の食材を使ったアメリカン料理を楽しむことができます。
今回のツアーでは、醸造長の清沢さんからブリュワリーの成り立ちやビールづくりへの想いを聞きながら、地元食材を使ったランチとクラフトビールを味わいました。

右から2番目が醸造長の清沢さん
地元の恵み同士だからできる「ペアリング」
テーブルに並んだのは、宮城の食材をふんだんに使った料理。
蔵王チーズのフライ、石巻の魚料理、女川産のサーモン、地元の野菜サラダなど、東北の食材を使った料理とクラフトビールを合わせて楽しみます。
清沢さんは、ビールにもペアリングがあると語ります。
食事に合わせてビールを選ぶことの楽しさも、地元の食材を使っているからこそできる楽しみ方です。

食事の途中には、清沢さんからブリュワリーの成り立ちについての話もありました。
秋保という土地に惹かれ、この場所でビールを造ることを決めたこと。
そして、この地域に新しい文化を生み出したいという想い。
ただ料理とビールを味わうだけではなく、その背景にあるストーリーを聞くことで、この場所の魅力が少しずつ見えてきます。
ガストロノミーの旅は、こうして「人」と出会うところから始まるのかもしれません。

秋保ワイナリーで、ワインの始まりに触れる
バスで数分走ると、丘に広がるぶどう畑と、ワイナリーの建物が見えてきました。
ここが、秋保ワイナリーです。
秋保ワイナリーは、仙台の奥座敷とも呼ばれる秋保温泉の近くに位置するワイナリーで、この土地の風土を生かしたワイン造りを行っています。ぶどう畑は山に囲まれた南斜面にあり、日当たりや風通し、水はけといったぶどう栽培に必要な条件が揃った土地です。
ここでは今回、ワイン用ぶどうの収穫体験を行いました。
畑に立つと、風の流れや土の匂い、山の景色までがワインの味に関わっていることが自然と理解できます。
ワインの世界では、こうした土地の個性をテロワールと呼びます。
つまりワインの味は、ぶどうだけではなく、この土地の風景そのものでもあるのです。

秋保ワイナリーにつくと広がるぶどう畑
なぜ秋保でワイナリーを始めたのか
秋保ワイナリーの代表である毛利親房さんは、もともと建築設計の仕事をしていました。
人生を大きく変えるきっかけになったのが、2011年の東日本大震災です。
震災の後、毛利さんは復興計画に関わる中で、宮城県にあった唯一のワイナリーが津波の被害を受け、県内のワイン産業が途絶えてしまったことを知ります。
「ワインには人と人、食と人をつなぐ力がある。ワイン産業が復活すれば、地域の食や観光も一緒に盛り上げられるのではないか。」
そう考えた毛利さんは、ワインを軸にした地域づくりを構想します。
最初は沿岸部でワイナリーをつくる計画でしたが、土壌の塩害などの課題に直面し、計画は一度立ち止まることになります。
それでも諦めず、ぶどう栽培に適した土地を探し続けた結果、出会ったのがこの秋保の土地でした。
仙台中心部から車で30分。
温泉地として多くの観光客が訪れる場所でありながら、豊かな自然が残る地域。
「ここなら、ワインと食を通して地域の魅力を伝えられる。」
そう考え、秋保でワイナリーを立ち上げることを決めたのです。

毛利さんがワインをつくる理由は、単にワインを造ることではありません。
目指しているのは、ワインを通して地域の食文化をつなぐことです。
ワインと料理。
生産者と料理人。
観光と地域の農業。
そうしたものをつなげることで、地域の魅力を伝えていく取り組みを「テロワージュ(テロワール×マリアージュ)」と呼び、東北各地の生産者や料理人と連携した活動も行っています。
秋保ワイナリーは、その拠点でもあります。
畑で収穫されたぶどうはワインになり、レストランではそのワインと地元食材の料理が提供される。
そしてその体験を求めて、人がこの土地を訪れる。
ワインは、地域をつなぐ存在になっているのです。

ボトルデザインも仙台を表現している
ワインが生まれる場所に立つ
今回のツアーでは、ぶどう畑に入り収穫体験を行いました。
一房ずつ丁寧に切り取ったぶどうは、やがてワインになります。
ただ房を収穫するだけではなく、状態が変化してしまっている粒は一粒ずつ取り除いていきます。
この作業があるからこそ、繊細でなめらかな味わいが生まれるのだと感じました。
毛利さんからさまざまなお話を聞きながら、夢中で作業を続けます。
ふと顔を上げると、目の前には山に囲まれた秋保の谷の風景が広がっていました。
風が静かに畑を通り抜け、ぶどうの葉がゆっくりと揺れています。
この土地の空気や光、そして人の手仕事が重なって、一杯のワインが生まれるのだと実感しました。
山に囲まれた秋保の谷。
風の流れるぶどう畑。
そしてワインを造る人の話。
秋保ワイナリーでの体験は、単にワインを飲む時間ではなく、
ワインが生まれる土地を知る時間でした。

千年の温泉文化に触れる
秋保温泉「佐勘」
秋保ワイナリーでの収穫体験を終えたあと、ツアーはこの日の宿泊先である秋保温泉「佐勘」へ向かいました。
秋保温泉は、古くから知られる名湯で、日本でも歴史の古い温泉のひとつとされています。
その中心にあるのが、「伝承千年の宿 佐勘」です。
佐勘の歴史はおよそ1000年前にさかのぼり、佐藤家が秋保の湯元で小さな宿を始めたことがその始まりとされています。現在もその子孫によって宿は受け継がれており、34代続く老舗旅館です。
また、江戸時代には仙台藩主・伊達政宗公の湯浴み御殿としても利用され、仙台の歴史と深く結びついた場所でもあります。
館内に足を踏み入れると、広々としたロビーや庭園、名取川を望む湯処など、伝統と落ち着きを感じる空間が広がっています。
今回のツアーでは、秋保の自然に囲まれた温泉でひと息つきながら、この土地の文化に触れる時間が設けられていました。
ガストロノミーの旅では、食だけでなく、土地の文化や歴史を体験することも重要な要素です。

秋保の食とワインが重なる夜
TERROAGE AKIUでのガストロノミーディナー
温泉でひと息ついたあと、夕食の会場へと向かいました。
場所は、お昼に収穫を行った秋保ワイナリーが手がけるレストランTERROAGE AKIU(テロアージュ秋保)です。
「究極のマリアージュは産地にあり」をコンセプトに掲げ、秋保や宮城、東北の食材を使った料理とワインのペアリングを楽しめるレストランです。
昼の明るい雰囲気から落ち着いた空間に変わり、そこに秋保の食材を使った料理が次々と運ばれてきます。

最初の一皿は、塩釜産マグロのタルタル。
グリルしたパンの上にのせられ、瞬間的にスモークされた香りが広がります。
続いて、秋刀魚のコンフィと舞茸のソテー。
さらに、枝豆と新米を使ったスペイン風のおじやや、カボチャのニョッキなど、地産地消の食材を生かした料理が続きます。
メインには、岩出山産の猪肉。
秋保ワイナリーで造られるワインの搾りかすを使ったソースが添えられ、ワインと料理が自然に重なります。
それぞれの料理には、秋保ワイナリーのワインがペアリングされていきます。

塩釜産マグロのタルタルには、その場でスモークをし香りを広げる
畑で育った野菜。
東北の山の恵み。
そして、この土地のぶどうから造られたワイン。
それらが一つのテーブルの上で重なることで、秋保という土地の味が立ち上がってきます。
ディナーの席には、秋保ワイナリーの毛利さんも同席し、ワインやこの地域の食文化について話を聞くことができました。

自然が酒の味をつくる
日本三名瀑「秋保大滝」
翌朝、温泉地の静かな空気の中で目を覚まし、ツアーは秋保の自然を巡る時間から始まりました。
向かったのは、秋保大滝。
秋保温泉から車でおよそ20分ほど山の奥へ進むと、豊かな森の中にその姿が現れます。
落差55メートル、幅6メートル。
秋保大滝は、日本三名瀑のひとつにも数えられる滝で、古くからこの地域の象徴的な存在とされてきました。
展望台から眺める滝は迫力があり、絶え間なく流れ落ちる水の音が山に響きます。
さらに遊歩道を下りていくと、滝壺の近くまで歩いて行くこともでき、水しぶきとともに滝の迫力を間近で感じることができます。

森と水がつくるウイスキー
ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所
秋保大滝を後にして、ツアーの最後に訪れたのが
ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所です。
仙台市中心部から西へ向かい、山に囲まれた静かな谷にその蒸溜所はあります。
蒸溜所に到着すると、まず目に入るのはレンガ造りの建物と豊かな森の風景。まるで海外の蒸溜所を訪れたかのような雰囲気が広がっています。
宮城峡蒸溜所は、日本のウイスキーづくりを築いたニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝が、1969年に設立した蒸溜所です。
竹鶴は、ウイスキーづくりには「良い水」と「豊かな自然環境」が欠かせないと考えていました。
その条件を満たす場所を探し続けた結果、出会ったのがこの宮城峡の地だったといいます。
蒸溜所は、広瀬川と新川という二つの清流が合流する場所に建てられており、周囲を森に囲まれた静かな環境が広がっています。

ツアーガイドさんが丁寧に宮城峡の歴史についてお話しをしてくれます
見学ツアーでは、ウイスキーの製造工程を順番に見ることができます。
麦芽を仕込み、発酵させ、蒸溜し、樽で熟成させるまで、ウイスキーができるまでには長い時間がかかります。
蒸溜所見学の最後には、ウイスキーの試飲を楽しむ時間も用意されています。
グラスを傾けながら、これまで巡ってきた秋保の景色を思い出しました。
山に囲まれたぶどう畑。
クラフトビールのブリュワリー。
温泉の町並み。
そして、この森に囲まれた蒸溜所。
秋保という土地は、食と酒、そして自然がひとつにつながる場所でした。

美酒と美食の土地、仙台秋保
今回のツアーで巡ったのは、ビール、ワイン、ウイスキーといった酒の文化と、それを支える食や自然でした。
クラフトビールを造るブリュワリー。
ぶどう畑からワインが生まれるワイナリー。
歴史ある温泉旅館。
地域の食材を生かした料理。
そして森と清流に囲まれた蒸溜所。
それぞれの場所を訪れるたびに感じたのは、仙台秋保の食や酒が単独で存在しているわけではないということでした。
すべてが重なり合って、仙台秋保の食文化が形づくられています。
ガストロノミーとは、単に料理を味わうことではなく、その土地の風景や文化、人を含めて体験すること。仙台秋保には、そのすべてがありました。
温泉地として知られてきたこの場所には、今、もうひとつの魅力が生まれています。
それが、美酒と美食の土地としての秋保です。
ワインを造る人がいて、ビールを醸す人がいて、料理人がいて、食材を育てる人がいる。
そのすべてが、この土地の自然とつながっています。
今回の旅を通して感じたのは、秋保の食や酒を味わうことは、
この土地そのものを味わうことなのだということでした。
仙台の奥にある、美酒と美食の土地。秋保には、まだ知られていないガストロノミーの世界が広がっています。
